「ファスナーなんてどれも同じでしょ?」って思ってませんか?
しかし実際はすぐに壊れるファスナーと頑丈なファスナーがあります。
両者の差は一体何なのでしょうか?
今回は、
- ファスナーはなぜ壊れるのか?
- 何が品質を左右するのか?
について、3年間の耐久性が求められるスクールバッグ市場で戦ってきた片岡商店がガチ解説します。
ファスナーが壊れるまでの5つのプロセス
典型的なファスナー故障例がコチラ。
ムシと呼ばれるかみ合わせパーツがテープから脱落しています。なぜ外れてしまったのでしょうか?順番にご説明しましょう。
①スライダーとムシが摩擦する
ファスナーの開閉を担うスライダーを動かすと、ムシ部分との接触により摩擦が発生します。開閉頻度が多いほど蓄積される摩擦ダメージも大きくなります。
②ムシを止めていた糸が擦り切れる
徐々に蓄積された摩擦ダメージにより、テープにムシを固定していた糸が擦り切れます。
③ムシがズレる
糸切れによりムシの位置がズレます。結果整っていたファスナーラインにゆがみが発生。
④スライダーが入りにくくなる
③で発生したゆがみが、スライダーの動きを阻害します。とはいえ完全に使えないわけではないため、そのまま無理に使う方がほとんどです。
⑤さらに糸が切れてムシが外れる
無理に使い続けた結果、ダメージ範囲が拡大。ついには広範囲のムシがテープから脱落します。こうなるとファスナーを正常に使うことができません。
【顕微鏡で観察】ファスナー品質を左右するのは糸
ファスナーが壊れる過程は理解頂けたかと思いますが、壊れやすいファスナーと壊れにくいファスナーは何が違うのでしょうか?顕微鏡で観察し比較してみました。
安価な海外バッグに使われているファスナーの場合
下記はインターネットで3,000円前後で販売されている安価なウエストバッグのファスナーを顕微鏡で撮影したものです。ぱっと見、形状に問題はなさそうです。
国産YKK製ファスナーの場合
次にファスナー大手、YKKのコイルファスナーCFシリーズを見てみましょう。海外製と比較するとムシを固定する糸が太く、撚りがしっかりしていることが分かります。
最強のファスナー YKK 65EYF
さらに当社が扱う一部スクールバッグに使われている最強ファスナー(YKKの65EYF)を拡大したものがコチラ。糸の本数が明らかに多く、ムシが強固に固定されていることが分かります。
実際この最強ファスナー65EYFを採用しているスクールバッグは、ほとんどファスナー修理が発生していません。
比較して分かること
このように比較すると、ムシを固定する糸が全く異なることが分かります。
つまりファスナーの耐久性は糸の品質によって決まるのです。(YKK以外にもSKOなど品質の高いファスナーを作る会社は多くあります。)
【その他】ファスナーが壊れやすくなる要因
どれほどファスナー自体の品質が高くても、外部要因で耐久性は変動します。いくつかその例をご紹介しましょう。
保管場所で強度が落ちる
ファスナーのムシを固定する糸ですが、紫外線によって劣化します。下記グラフは、太陽光が糸の劣化にどれほど影響を与えるのか?海外糸メーカーが実施した試験結果です。
縫製現場では、綿や絹といった天然素材より強度があるポリエステル糸が多く採用されています。しかし紫外線の影響には勝てず、炎天下の砂漠に放置された場合、1年後には60%以上も強度が低下しています。
つまり、日が良く差し込む窓際や炎天下にバッグを放置しておくと、その分ファスナーの糸劣化が進み壊れやすくなるのです。
また余談ですが、バッグ業界では大手有名ブランドのファスナーでも国内製と海外製では強度が異なる話をよく聞きます。おそらく海外縫製現場におけるファスナー保管環境が良くないからと推察します。
スライダーを強く引っ張ると壊れやすい
急いで中のものを取り出したい場合、ファスナーのスライダーを強く引っ張ってしまいがち。しかしこの行為は糸への摩擦ダメージが増大するため良くありません。開閉は丁寧にしてあげましょう。
中身をギュウギュウ詰めにすると壊れやすい
収納容量を超えてバッグの中にあれこれ詰め込んでいませんか?ギュウギュウ詰めにするとスライダーの動きが固くなり、前述した強く引っ張る動作につながります。
またバッグ内部からの圧力で糸に負荷がかかり、切れやすくなります。特に角が立っているタブレット・書籍・PCがファスナーに当たる形で収納している方は要注意です。(筆者もPCの角で2度壊した経験有り)
角ばっているほど壊れやすい
ファスナーはいろんな場所に設置できるので便利なパーツです。しかし角ばった場所に使われると糸への負荷が増大し壊れやすくなります。バッグ購入時は極端に角が立っている場所にファスナーが使われていないかチェックしておくとよいでしょう。
まとめ:単純に価格だけでバッグを選ばないで
今回はバッグ故障で最も多いファスナーの耐久性を解説しました。ファスナーは外見から違いが分かりにくいですが、細部拡大すると品質差があること分かって頂けたかと思います。
当社は長年スクールバッグの企画販売を行っています。が、学校側で部材の品質レベルまで議論されることはほとんどありません。
そして他社との単純な価格勝負になった場合、まず削られるのはファスナーや生地の品質。結果、修理多発でかえって費用がかかります。
良い製品を作りたいが、そのためには部材レベルの違いを分かりやすく伝えなければ検討側は分からない。そんな想いで本記事を書きました。
もし読者の皆さんがバッグを長く使いたいならば、多少高くても
バッグを選ぶ方が賢明です。
ファッション界ではサスティナブル素材を使った製品が注目されていますが、すぐに壊れない・長く使えるものが本当のSDGsと片岡商店は考えます。
本記事がバッグを長く使いたいと想う方のお役に立てれば幸いです。
今日の一句
”ファスナーの 神は細部に 宿るなり”
コメント
コメント一覧 (1件)
こんなにファスナーを詳しく分析してるサイトは他に無いね
勉強になる
やっぱ安物はだめだな